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日々だらだらと書き綴る日記です。
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可李乃あさみ
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40
性別:
女性
誕生日:
1984/02/23
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暑い一日になりそうだ。
まだ正午を過ぎていないのに、朝にされた打ち水はとうに乾き、風に吹き上げられて砂埃が舞い上がり、まとわりついて、不快な気分にさせる。
勢い良く歩を進めると、転がった石に下駄が当たって、からり、と音がした。
足元を一度見て、顔を上げる。
少しはなれた正面に、何棟か並んだ長屋が見えた。
(やっとついた…)
その、一番右端の棟の、一番奥の部屋の借主に釖虎は用があるのだ。

長屋の周りに低い垣根があり、小さな門がある。
釖虎は、門をくぐって長屋の敷地に入った。
門のすぐ横には井戸があり、そこに何人かの女が集まって、洗濯をしていた。
そこに目的の人物がいないのを見て取って、釖虎は奥へと進む。
長屋の敷地にまめに打ち水がされ、手入れも行き届いていて、先ほどまでの不快な気分を、釖虎はあっさりと忘れることができた。
顔を上げて、目指す扉を見る。
「?」
戸惑った。住んでいる人物に似つかわしくないことに、扉が、全開、だったのだ。
一瞬、場所を間違えたか、とさえ思ってしまった。
しかし確かにここにいると聞いたし、扉が開いているということは、誰かはいるということだ。
扉から、中をのぞく。
まず目に入ったのは、扉と同じく全開の窓だった。
そして、今にも土間に転がり落ちそうな場所で無防備に眠る人影。
その人影が、自分の良く知る目的の人物だということを確かめて、釖虎は開いた扉の正面に立った。
そして困る。ここから呼んで起こすか、上がりこんで起きるのを待つか、それとも出直すか。
少し考えて、釖虎は上がりこむことにした。いつもやっていることだ。怒られることはないだろう。
「釖虎」
そう決めて、敷居をまたいだところで、声がかかった。
寝転がったままの鈴刃が目だけをぱっちり開けている。
そして、むくり、と起き上がった。
「どうした?珍しいな。仕事明けにくるなんて」
「報告書を取りに行くように言われました」
「報告書なら、もう金代にもたせたよ。直接の報告を昨日老主様にしたから、形だけの報告書なのに、何で釖虎が取りに?その報告書のおかげで、ぼくは今眠いし、昨日眠れなかったし、釖虎だって、一緒に仕事してたんだから疲れてるはずなのに」
「いえ、私は、仕事が終わってすぐ寝ましたから」
「ふうん?ならいいんだ。……老主様たちは、たまに人使い荒いよね。金代にもたせないほうがよかったのかな、そしたら入れ違いになったりしなくて、釖虎は、無駄足踏まなくて良かったかも知れないのに」
言いながら鈴刃が左右にゆれてぱたり、と横に倒れた。すぐに起き上がる。
「まあ。せっかくだからあがってゆっくりしていって。お茶菓子は無いけど、お茶は自分で淹れてくれていいし、その辺に転がってる書物も、読んでいいからさ」
「すず?」
もう一度、ぱたりと倒れて何も言わなくなった鈴刃を心配して、釖虎が声をかける。
「半刻したら、起きるよ」目を閉じたままそういって、鈴刃は、また寝息を立て始めた。

薬缶にお湯を沸かしてお茶を入れる。薬缶と急須と湯飲みを探すのに手間取って、ついでに鈴刃の部屋から井戸が遠くて、気がつくと、お茶がはいるまでに四半刻が過ぎていた。
鈴刃は相変わらず土間と部屋の境目に陣取って、寝息を立てている。
お盆に載せた急須と2つの湯飲みをひっくり返さないようにして、釖虎は、鈴刃をまたいで、部屋に上がりこむ。
お盆をちゃぶ台において自分の分の湯飲みを手元に置いた。
ちゃぶ台の一角には筆や硯が出されたまま放置され、その足元の床には、人一人座れる空間をあけて本が散乱している。
その1つを手に取り、お茶をすすりながらめくる。
そうしているうちに、鈴刃が起き上がった。
時計を見ずとも分かる。ちょうど半刻だ。
鈴刃が目をこすりながら、散乱した筆記用具をさけてちゃぶ台につく。
釖虎が淹れておいたぬるくなったお茶を差し出した。鈴刃は、そのお茶に口をつけようとして、しかし、口をつけず部屋の入口の方を振り返った。
「お帰り、早かったね、金代。お疲れ様」
釖虎がつられて振り返ると、相変わらず全開の扉の前に、金代が少し驚いたような顔で立っていた。
「伝書鳩を、飛ばしていただいたんです」
「ふうん?形だけの報告書だし、露見して困る記述もない。確かに、正しい選択かもね」
少し考え込むように鈴刃が首をかしげる。
「うん、問題はないよ。ああ、でも、ちょうどいいから頼み事」
「はい」
びし、と金代が背筋を伸ばす。鈴刃が少し笑って、釖虎が嘆息した。
(今は、すず、なのに)
そして、すずの頼み事がびし、と背筋を伸ばして聞くようなものではないのだろうと、釖虎は予測する。
「井戸に、西瓜をつるしておいたの。ちょうど冷えた頃だと思うから、取って来てくれない?」
「はい?井戸?あ、いや、はい、分かりました」
釖虎の思った通りに真剣に聞く必要のなかった頼み事に、金代は少し面食らった顔をして、それからぎこちなく笑い、あわただしく出て行く。
鈴刃がくすくすと笑う。
「いつまでたっても、すずと鈴刃の区別つかないみたいだけど、からかうと楽しいのよね」
「すずと鈴刃の区別をつけるというのは、少し難題だもの」
「でも、釖虎は完璧じゃない」
「慣れたもの」
「そう?でも二人が来てくれてよかった。私一人じゃ食べきれないもん」
あんまりほっとくと痛むしね。と付け加える。
ならどうして西瓜なんか、と釖虎が疑問を口にする前に、小ぶりな西瓜を入れた桶を持って、金代が戻ってきた。
先ほどまでと違って気安い雰囲気で鈴刃の部屋の敷居をまたぐと、鈴刃が何か言う前に、流しの前に立って、西瓜に包丁を入れた。

*****
夏がテーマな簡単SSです。
しかしなんだか私の書く話は眠ってるシーンが多いような。
これから、かけたら、夏をテーマにした話を世界ごとに書いていこうかなと思ってます。
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