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日々だらだらと書き綴る日記です。
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可李乃あさみ
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その頃、ベルは。
「―――♪♪―――♪――るよ。メモル=メモリアに聞いてみな♪この世で知らぬことはない♪彼女は―――」
誰にも邪魔されない木の上で、まどろむように歌を口ずさんでいた。そして、何かに気付いたように瞬きする。はて―――
(当代のメモル=メモリアは誰だったか―――…)

メモル=メモリアとは歴史書、否、歴史記録書、と呼ぶのが正しいだろうか。そこには、類推も憶測も主観さえもなくただ純然なる事実だけが記録されている。人の手で改竄する事も消し去ることも叶わないこの歴史書には、「神殿」の隠しておきたい過去や裏側も、当然のように記述されている。そのため、「神殿」である一定の身分にならないと、閲覧はおろか、存在さえ知ることができない。消せないのなら、出来る限り隠してしまえ、ということだ。
と、まるで書物のような扱いだが、メモル=メモリアは歴とした精霊である。ただ、ベルたち「使い」と違ってマスターがいないし、人の想いで形を変えたりもしない。見た目は御伽噺の妖精のように小さくて、背中に生えた羽で、大抵あちこちを飛び回っている。そして、メモル=メモリアは、記録を受け継がなくてはいけない性質上、代替わりがあるのだ。ベルのように他の精霊のかけらを取り込んで得た断片の記憶ではなく、正当なるこの世界の記憶の継承者なのである。
ちなみに、メモル=メモリアというのは初代の記録者の名前で、今では役職名みたいになってしまっていて、初代の「メモリア」と言う姓だけが記録者の中で受け継がれている。
さて、そのメモル=メモリアのことは、誰に聞くべきか。キトもヒナも、高い身分にいるわけではないから、存在自体知らないだろう。なじみの「使い」に聞くという手もあるが、1ヶ月前の戦いで「使い」の入れ替わりが激しく、誰がいて誰がいないのか、ベルは把握できていない。「神殿」を牛耳る老人たちに聞く手もあるが、彼らはきっと口を割らない。それ以前に魔法騎士の最低位に属するキトの使いである自分には、会おうともしないだろう。自分が古い精霊であることを利用して脅すことも出来なくはないが、たかだか1人の精霊の名を知るために老人を脅すのもばかばかしいので、却下。
と、なると。
「図書館か」
運が良ければ、メモル=メモリアに会えるかもしれない、何せ彼女はそこに隠され、そこを寝床としているのだから。
本当に書物の扱いだな、とベルは思う。ただ、自分の意思で移動して、しばしば外に出て行ってしまっているというのが、秘蔵の書物とは違うのだが。図書館の普通の書物なら自分の意思で移動はしないものの、貸し出されて所在が分からなくなるのは良くあることだ。それを考えれば、図書館に行くのが一番正しい選択だろう。
しかし、
「図書館…」
ベルが、深々と息を吐く。これまで仕えたマスターたちの中に、本に囲まれて生きているような人間は居なかったし、ベルにも読書の趣味も習慣もない。本に囲まれた環境というものに馴染みがないため、どうしても心構えが必要で、図書館は行きづらい場所の1つになっているのだった。そしてもう1つ、「神殿」の図書館は広大で、そこから何の手がかりもなく本を探し出すのは至難の技だ。しかも相手は普通の本のように分類されて並べられているのではなく、どこにも属さずに移動する。
いつの間にか、ベルは、メモル=メモリア本人を探し出すことを考え始めていた。誰にも聞けないとなると、それしかないのだ。しかし、色々な手間は省けるだろうとも考える。
はあ、ともう一度息を吐いてベルは木から飛び降りた。
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