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日々だらだらと書き綴る日記です。
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可李乃あさみ
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女性
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1984/02/23
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図書館に入って扉を閉めると、意外に大きな音が響いて、ベルは首をすくめた。
図書館というのは、静かなのにざわめいていて、いつ来てもベルを不思議な気分にさせる。人がどれだけ集まっても静かで、しかしそれぞれがてんでばらばらなことをしているために生まれるざわめきを、ベルは居心地悪く感じる。そのざわめきは、人のさざめきだ。図書館は、それがよく聞こえる場所なのだ。
耳を澄ませるように、ベルは目を閉じる。

(『探し物は、足の赴く場所に』)
探し物をするときの呪文をベルは心の中だけで唱える。呪文というものは、声に出せば世界に影響を及ぼし、何らかの形になる。声に出さずに心の中だけで唱えれば、自分に影響を及ぼし、たとえば勘、たとえば火事場の馬鹿力、そういう普段は自分の表に出ないものになる。
閉じた目を開く。最初に見えたのは上への階段。ベルは、迷い無くその階段に足を向ける。
上ろうと足をかけると、ぎし、と軋む音がした。思わず足を引っ込めて、しかし思いなおして、上る。
足をすすめるたびに、ぎしぎしぎしぎしと音がする。
(大丈夫かこの階段)
自分はそんなに重くないはずだ。多分、断じて。
静かな空間に響く音に若干の居心地の悪さを感じつつ、階段の強度を心配する。
壊れたりしないだろうか。
「あら、ベル」
階段を気にするあまり、下ばかり向いていたので、いきなり声をかけられて、驚いた。
2つに分けて毛先を赤いリボンで結んだ太股までの長さのある暗く鈍い茶の髪、簡素なワンピースのスカートは、巫女の証。目尻の下がった気弱そうな目は柔らかな水の色。
「ヒナ」
本を一冊抱えて降りてくるのは、ベルの今のマスターであるキトが、仕えている少女だった。
「珍しいわね、ベルが図書館にいるなんて。それに、こんな所で会うなんて」
「うん、ちょっと…探し物。ヒナはよく図書館に?」
「よく、ってほどじゃないわ。今日は暇だったし、調べたいこともあったから、たまたま」
「さっき、ボクが図書館にいるのが珍しいって言った」
「それはー…、ベルの夢に、図書館がでてきたことないでしょう?それに、本もほとんど出てこないわ」
「あー…」
声と共に、ベルが少し困ったような笑みをこぼす。そうだった。
戦いの後、取り込んだ「かげ」の消化に全力を費やして、眠っていた一週間。ベルとヒナは夢を「共有」した。
それは、ヒナの、他人の夢に入り込む、という能力ゆえであったが。
(厄介だな)
ベルは思う。夢を覗かれるということは、記憶はもとより、自分の意識することの無い深層の意識さえ覗かれることになるからだ。
自分のすべてを知られて困る程度には、ベルにも秘密がある。
「ね、ベル」
そんなベルの思いとは裏腹に、ヒナはいかにも気軽にベルに話しかける。
「探し物、手伝おうか」
「いや、必要ないよ」
メモル=メモリアの事も、そんな、知られて困る秘密の一つなのだった。
「そう?じゃあ、後で」
そう言い残して、ヒナが階段を下りる。見送ることなく前を見て、しかし、違和感に振り返る。しばらく、なんだろう、とヒナを目で追って、唐突に気が付いた。
階段がきしむ音がしない。
ベルとヒナでは、見た目からしてベルの方が小さく、軽い。それなのに。
ベルが、次の段に足をかけるとぎし、と音がした。
それなのに、何故、ベルが歩くと階段が鳴るのだろう。
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